「そこはあんまり深く考えていなかったです(苦笑)。ただ、逆にプロレスをやらさせている、みたいな感情もないですし、プロレスをやることが辛いとも思わないですね。私はアップアップガールズ(プロレス)のオーディションで合格したんだから、アイドルとプロレスを両方やるのは当たり前のことじゃないですか?
それにプロレスに対する知識がまったくなかったので、とにかく教えていただいたことを忠実に覚えていくしかないんですよ。そこには疑問や抵抗の生まれる余地がなかった。受け身ってよくわからないけど、とにかくしっかりと顎を引いて、頭を打たないように……それだけで精一杯でした」
とはいえ、学生時代は吹奏楽に明け暮れ、スポーツの経験がないどころか、運動神経がないと自認する彼女にとって、プロレスラーへの道は相当、ハードルが高かった。何ヵ月経ってもデビューできる兆しがない。同時期に東京女子プロレスに入門した子たちが続々、デビューを決めていく中で、明らかに自分だけが取り残されている。その一方でメンバーが休むときにはアイドルとして一緒に歌ったりもしていたので、心のモヤモヤはどんどん大きくなっていく。
「すっかり面倒くさい女になっていましたね、私。アイドルとしてリングで踊れと言われたときにも『私はまだプロレスラーとしては練習生。そんな中途半端な立場でリングに立ちたくはありません!』って前日までゴネたりして。
そのとき、事務所の社長に言われたんです。『たしかにあなたはまだ練習生かもしれない。ただアイドルとしてはもうデビューしていますよね? アイドルとしてプロの責任をはたしてください』。その言葉を聞いてハッ!となりました。アップアップガールズ(プロレス)としつ活動していくことって、こういうことなんだって。メンバーとして、はじめて自覚した瞬間でした」
ドタバタしながら上がったリングで、鈴木志乃はデビュー戦が決まったことをサプライズで知らされた。自分がリングに上がらなかったら成立しなかったわけで、彼女はアイドルとプロレスの二刀流を続けていく上での責任と決心を強烈に感じることとなる。
オーディション合格から7ヶ月でようやく掴んだデビュー。あれから4カ月、鈴木志乃はいまだに自力勝利を上げたことがない--。 (後編につづく)
【後編はこちら】アイドルとプロレスの二刀流・アプガ(プロレス)鈴木志乃「25歳、年齢を気にしていたのは自分だけ」