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UPDATE|2023/08/02

ゴールデンボンバー 鬼龍院翔が語るステージ論「音楽性よりエンタメに振り切ったほうが夢破れない」

ゴールデンボンバー 撮影/菅沼剛弘



「音楽を芸術だと思って頑張るというのはやりがちだと思うんですけど、そこに労力を割くよりも、エンタメに振り切ったほうが夢破れないと思うんですよね。そういう夢のないことを教える人がいないから、みんな真面目に音楽を頑張ると思うんですけど、いいものさえ作っていたら売れるなら、じゃあなぜ、ゴッホは生きてるうちに評価されなかったのか? 芸術性が高いものを作っても、評価するのは一般大衆なんですよね」

確かに、オーディエンスは音楽に専門的に詳しいわけではない普通の人々だ。

「こういったことにミュージシャン5年目で気づくよりは、1年目で気づいたほうが夢破れる人が減ると思うんです。ヴィジュアル系の中では僕なんてまだ下っ端ですが、少しは後輩に伝えられればと、当たり前のことだけを書きました」

ちなみにこのような考えに至ったきっかけは、「恩師」の言葉だったという。

「僕の音楽の恩師の方が言ってくれたのは、『新しいものを作ろうとしなくていいから』。ビートルズみたいなすごい音楽が作れると思っても無理だからって。音楽を作るということは、インテリアコーディネーターと同じようなものでいいんだと。そういうことを教えて頂いたので、僕は駆け出しの頃からわりとダサめというか、自分が好きな懐かしい感じの曲をやれていたし、エンタメに振り切るのが早かったかもしれないですね」

そんな恩師がいたからこそ、現在の鬼龍院氏がいるのである。一方、本書にはファンや信頼できる人からの言葉でも「可能性を狭める意見は感謝しつつ無視」と書かれている。

「ヴィジュアル系の世界はバンギャの方々の愛が強いので、ステージの人にこうあってほしいという思いをぶつけることも多いと思うんですよね。でも、お客さんの意見全部を聞いていたら、新しいことなんて絶対できない。新しいことは基本的にお客さんは嫌がります。国民全員、新しいことは嫌がるんです。例えば最初にスマホが出てきた時も、ガラケーでいいじゃんって風潮がありましたし、今だったらAIが怖いとか…。誰もが最初は新しいものに恐怖を感じるというか、親しみがもてないんですよね」

納得だ。というか、話を聞きながらミュージシャンというよりは政治家の話を聞いているような気分になってきた。ここまで人間の心理を分析しているとは、やはり鬼龍院氏は只者ではない。もし彼が選挙プランナーとかになったら候補者は当選確実だろう。「人の心を掴む」という点で、万人に共通する秘策を持っているのである。「売れる」人の凄みを見た気がした。

「新しいものに不安を感じさせないようにするのがフロントマンの役割だと思います。何もかもお客さんの言うとおりにしていたら、今まで見たことあるバンドにしかならないですから。ヴィジュアル系って、もっと破天荒でいいと思うんですよ。僕がバンドを始めた当初は、フロアの客全員に目にもの見せてやる、みたいなテロリストのような気持ちでした(笑)。そこはパフォーマーの腕の見せ所だと思うので、意見に振り回されないというのは大事だと思います」

だが、無名バンドにはお客さんから意見が届くどころか、そもそも誰もステージを見てないなんてことすら起きる。本書にはそんな状況でどうすべきかも書かれているのだが、駆け出しの頃、心が折れたりムッとしたことはないのだろうか。


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