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UPDATE|2023/09/08

令和の世に問う「プロレスラーに強さは必要か?」永田裕志が正面から答えた!

撮影/松山勇樹


「猪木会長がよく口にしていたのは、どんな不測の事態が起こっても対処して試合を成立させるだけの技量を身につけろということ。僕は2000年の『INOKI BOM-BA-YE』で飯塚高史と組んで、マーク・コールマン&マーク・ケアー組とプロレスの試合をしたんです。当時のケアーは『霊長類ヒト科最強』とか呼ばれていたけど、はっきり言ってプロレスは超下手糞でした。当たり前なんですけどね、プロレスの練習なんてしていないわけだから。

 でもそんな相手でも、お客さんが満足するような試合を成立させるのがプロの仕事。結局、そうなると必要になるのは上手さよりも強さなんです。相手の技術を封じ込めて、それを活かす方向に運んでいくためにはグラウンドで制圧できないと話にならない。猪木会長は『ホウキと闘っても観客を沸かせることができる』と言われていましたが、それって強さがベースにあるからなんです」

 では、永田の出世試合となったUWFインターナショナルとの対抗戦はどうか? 28年前のことを振り返りつつ、「あのときはイニシアチブの握り合いだった」とプロレスの試合としては異質であったことを認めている。

「相手に対する信頼がなかったですからね。彼らは普段から格闘技の練習をしていて、それが自分たちのプロレスだと信じている。キックひとつとっても、最大限のダメージを与える実戦的な蹴り方をしてくるわけで……。正直、そんなの受けたくないですよ。だから打撃の間合いを潰して、組んで自分の土俵に持っていったんです。今考えるとだけど、あの時点の僕たち新日勢はUインター側の打撃を許さない一方で、彼らを制圧するグラウンド技術があったんでしょうね。そして両者の信頼関係のなさが緊張感に繋がって、結果的にお客さんは熱狂したのでしょう」

 UWFの源流は新日本の道場にある。強さを追求して分派したUの戦士たちと、業界の盟主である新日本のプロレスラー……一体、強いのはどちらなのか? そうしたファンの好奇心が東京ドームを超満員にさせた要因だった。永田は「今でもファンはプロレスラーに強さを求めている」と断言する。「ルックスがカッコいい」「動きが器用」「技が華麗」といった要素だけでは、いつの時代も真のトップ選手になれないというのである。

「今年2月に武藤(敬司)さんの引退試合が東京ドームでありましたが、あの日はオカダ・カズチカと清宮(海斗)くんの試合も空前の盛り上がりを見せていました。前哨戦では清宮くんが背後から顔面蹴りでオカダを流血させて大乱闘になっていたし、怒り心頭のオカダも出場辞退を匂わせていた。そうした殺伐とした空気の中、2人が違う団体のエース格同士という要素も加わって、『結局、どっちが強いんだ?』というワクワク感に繋がったのでしょう。プロレスの本質は昔も今も変わらないということです」

 長州力、ジャンボ鶴田、谷津嘉章といった往年の名選手は、もともとオリンピック代表に選ばれるようなレスリングエリートだった。ほかにも柔道の小川直也、大相撲の輪島や北尾光司など、他の競技で頂点を極めた選手がプロレス団体に引き抜かれた例は枚挙にいとまがない。しかしプロレスと格闘技が完全に別物だとすれば、果たしてそれは本当に効率がいいスカウトなのだろうか? 現に新体操出身のIYO SKY(紫雷イオ)は、空中殺法を駆使してWWEマットで目覚ましい活躍を続けている。

「やっぱりレスリングをやってきた入門生は、他の人たちと比べて明確に違うんですよ。体幹がしっかり鍛えられているし、相手を倒す知識も寝かした状態でのコントロール技術もすでに持ち合わせていますから。基本的な体力とか腕力も段違いですしね。だから伸びるのも早い。レスリングで培った技術が活かされる局面は非常に多いです。
AUTHOR

小野田 衛


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