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UPDATE|2024/01/12

小津安二郎をリスペクトするドイツ人監督が描く現代の東京、重圧なテーマ・役所広司主演『PERFECT DAYS』

c 2023 MASTER MIND Ltd.



やはりそこには単に『Shall we ダンス?』(1996)や『バベル』(2006)などで、世界でも少しは知名度のある日本俳優という理由だけではなく、役所広司という俳優の存在感があってこそというもので、役所の存在がなければ成り立たない作品だといえる。

平山は、只々黙々と清掃員という仕事をしていく。それはやり過ぎなほど丁寧に。どこか自分という人間がそこに存在していた記録を刻んでいるかのようにも思える。

そんな平山も仕事終わりのちょっとした晩酌やカメラや音楽、読書の趣味など、日常にちょっとした幸せを感じる時々があって、またそれが自分の生きる道だと確信している。目と鼻の先には、スカイツリーと大都会東京が広がっているが、平山にとっては別世界であって、幻影でしかないと言い聞かせているかのようだ。

ところがある瞬間で、そんな別世界が物凄く近くに感じるときがある。それは寄り添うというよりも、極端に突き放される瞬間である。偶然にもAmazonプライムビデオで12月から配信開始されたインド映画『慌てず騒がず』にも近い描写があった。現実社会、特に都会の場合は、富と貧困の境界線が存在しており、それが比喩ではなく、実際に目の前に立ちはだかる瞬間というのがあるのだ。

決してそこにはたどり着けないのと確信している平山だが、どうして人生は、こうなってしまったのかという想いに引き戻される瞬間は、現実社会にも溢れていることであるからこそ、そこには嫌なリアリティがある。

観客としても、境遇や年齢によって、個人個人でそれは違ってくるのだから言語化が難しいことではあるが、決して他人事ではない何かを感じるはずだ。

ただ今作は、重圧なテーマである一方で、東京にある様々なデザイナーズトイレが映し出されることから、”東京トイレ図鑑”的側面からも楽しめる作品だといえるだろう。

【ストーリー】
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。

【クレジット】
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124 分
c 2023 MASTER MIND Ltd.
perfectdays-movie.
12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開中。

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