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UPDATE|2020/07/24

俳優・宝田明さんが語る満州引き揚げと沖縄戦「戦争がいかに悲惨で不毛かを伝えたい」

撮影/松山勇樹


 今回の映画『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』はノンフィクション。まぎれもない生の現実です。現在、90歳前後になった方たちが涙をこらえて歯を食いしばりながら、それでも淡々と証言している。同情……などという軽い言葉では到底言い表せません。彼ら、彼女らの気持ちを想うと本当に胸が詰まりますね。

 戦争は間違いなく当時の沖縄の人たちの人生を狂わせた。翻って国は彼らの傷ついた心をどう癒してくれたのか? それは何も補償という形あるものだけではない。沖縄という地域に思いを馳せ、大切に扱っていかなくてはいけないわけです。それなのに在日米軍基地の7割が沖縄に集中しているわけですから。

 戦争が終わったのは1945年。沖縄の施政権が日本に返還されたのが1972年。現状の沖縄の米軍基地の多さを見ると、「日本って本当に独立国なの?」という疑問すら沸いてくる。辺野古基地の問題もしかりだけど、要するに沖縄では「戦争は終わった」と言い切れないんです。だって一番肝心なのは沖縄の人たちの民意なわけで、そこで選ばれた県知事の玉城デニーさんは「辺野古はNO!」とはっきり言っている。それなのに国はアメリカとまともに交渉する気すらないんですよ。

 日本の憲法というのは世界に冠たるものだと僕は考えているんです。これこそが憲法の王道だし、どこに出しても恥ずかしくない“法典”と言ってもいいでしょう。中でも9条の1項と2項……これは「日本は陸海空軍の戦力を放棄する」「他国の戦争には加担しない」という内容ですが、僕たちはこの憲法を大事に大事に守り続ける必要がある。

 これは74年間、言わば樽の中で熟成されたモルトのようなもの。それなのに今は樽が壊れ始めて、どんどん貴重な原酒が漏れ始めているようなイメージがある。今、まさにそういう危機感が僕を衝き動かしているんですよ。

 戦争を繰り返さないためには、教育も大事だと思う。そういう意味でいうと、手前味噌だけど今回の映画こそ学校で上映してもらいたいくらいです。繰り返しになりますが、これはフィクションじゃなくて現実の歴史ですから。学校で映画鑑賞の時間を作って、みんなで体育館で観るのもよし。あるいは親子で鑑賞して感想を述べ合うのもよし。それが教育というものではないかと思うんです。子供たちがこの映画『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』を観て何を感じ取るのか? そこは僕も関心があります。
AUTHOR

小野田 衛


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