FOLLOW US

UPDATE|2023/06/17

「アイドル現場は肩書きが通用しない祝祭的解放区」ノンフィクション賞記者・田原牧の “推し活”

田原牧と雨宮処凛 撮影/西邑泰和



そうして最近注目し始めたのが「日本一バズるV系バンド」と言われる「0・1gの誤算」(以下、誤算)。16年に結成されたバンドだが、コロナ禍でYouTubeやSNSに力を入れた結果、広い層から注目を集めている。特にボーカル・緑川ゆうのYouTube公式チャンネルでは「V系・バンギャあるある」満載の動画が配信されている。ヴィジュアル系創世記を知る40代ババンギャの私も悶絶するネタが盛りだくさんだ。そんな誤算が、とうとう田原さんにも届いたのである。

「YouTubeでたまたま『入場時刻と同時に演奏がスタートしたらバンギャはどんな反応をするか検証してみた』って動画を見たんです(200万再生以上)。

あと、「『今からライブします!』ゲリラ告知したら何分後にファンがくるのか検証してみた」 。それとバンギャに教えてもらうヘドバン講座とか、本当に秀逸ですね」

これまでの推しとはだいぶ毛色が違うが、何が田原さんの心を掴んでいるのだろう。

「反体制とか反権威とかとは真逆なとこですね。自分たちより、バンギャを立ててる。しかもヴィジュアル系ではタブーとされることをたくさんしてる。おばあちゃんを紹介したり、お母さんをライブに出しちゃったり。子ども限定ライブ(「V系が子供限定ワンマンをやったら衝撃の人数が集まった!!」)をやったり。ある意味、欽ちゃん的な世界観で自分たちの方に世間を引き込もうとしてる」

そうか、「0・1gの誤算」は「V系界の欽ちゃん」なのか…。そう思うと納得する部分も確かにある。

そんな田原さんは現在、元バンギャの「子分」にライブへ偵察に行かせているという。

「そうしたら、もう運動量が部活並みにすごいって。切れ目がなくて休めなくて、北朝鮮のマスゲーム並みの一糸乱れぬ動き。よほどの使命感がないとああはできないって」

興味がある人はぜひ緑川氏のYouTubeで見てほしいのだが、現在のバンギャの動きはとにかくすごい。私自身、90年代はじめにバンギャとなり、90年代後半に一時期離脱。そうして09年に返り咲いたのだが、その頃には90年代にはなかった「一糸乱れぬバンギャの動き」が普通の光景となっていた。

ちなみに私は、バンギャを上がっていた02年、北朝鮮で金日成主席生誕90年を記念する10万人マスゲームを見ている。人間離れした技が次々と繰り出されるマスゲームは圧巻の一言で、それから数年間、何を見ても感動できなくなったのだが、そんな私の魂を再び震わせたのは十数年ぶりに経験したヴィジュアル系ライブだった。しかもバンドそのものではなく、客席でマスゲーム顔負けの一糸乱れぬ暴れっぷりを繰り広げるバンギャたちの姿だったのだ。

その日から私の第二次V系ブームは始まり、今に至るというわけである。そんなバンギャの特殊技能、つねづね世間に注目されるべきと思っていたのだが、それを世に知らしめたのが「0・1gの誤算」だったのである。


RECOMMENDED おすすめの記事