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UPDATE|2023/08/09

宮崎駿も涙した才能…「物語の解釈」で名曲を生むテーマソング職人・米津玄師

スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』の主題歌『地球儀』MV(YouTubeより)



他方で昨年放送されたアニメ『チェンソーマン』(テレビ東京系)の主題歌『KICK BACK』も、原作理解度が高い歌詞だったと言えるだろう。それはいわば、主人公・デンジの生き様をすくいとるような内容だった。

デンジは欲望に忠実な性格だが、その原動力となっているのは過酷な幼少期の経験であり、「普通に生きて普通に死ぬ」ことを切望していた。しかし人並みの生活を送ったことがないデンジにとって、幸福のイメージはつねに漠然としている。その空虚さを表現しているのが、≪幸せになりたい≫≪楽して生きていたい≫というフレーズだ。

ちなみに『KICK BACK』のリリース時に公開された特別ラジオ番組『KICK BACK Radio』で、米津は「(人が)どん底にいるときって、具体性を失っていくっていう。抽象的になって」「幸せになりたいが、そこに向かっていく道筋が全くわからない。そういう状況ってあると思うんですよね」と語っていた。デンジの生き様を正確に認識したうえで、楽曲を作っていたことが分かるだろう。

また、同楽曲にはモーニング娘。の『そうだ! We’re ALIVE』から、≪努力、未来、A BEAUTIFUL STAR≫というフレーズがサンプリングされている。『チェンソーマン』とはまったく関係がないように見えるものの、実は作中で銃の悪魔が襲来した年は、「モーニング娘。」のデビューと同じ1997年だった。

たんに時代背景が同じなだけではなく、バブル崩壊後の空虚な幸福論を歌っている点でも通じる部分があり、作品と深く向き合った姿勢が感じられる。

こうしてタイアップ作品への理解度の高さによって名曲を生んできた米津だが、元々彼の作曲スタイルは、“物語”を原動力とすることが多い。2018年にリリースした『Flamingo/TEENAGE RIOT』のカップリング曲『ごめんね』は、人気ゲーム『Undertale』にインスパイアされた楽曲だった。

おそらく米津の作曲活動は、物語に深く潜り込んでいく行為と密接に結びついているのではないだろうか。その才能がすぐれた作品とのタイアップで発揮されるのも、当然の成り行きだったのだろう。

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