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UPDATE|2023/11/04

キーワードは“献身と愛”、朝ドラ『あんぱん』制作決定で改めて考えたいアンパンマンの正義

子ども向けに描かれた最初の『アンパンマン』はひらがな表記だった(画像は『キンダーおはなしえほん』1973年10月号の表紙)

2025年春に放送されるNHK連続テレビ小説のタイトルが『あんぱん』に決定した。同ドラマは『アンパンマン』の作者・やなせたかし氏と小松暢氏夫妻をモデルにした作品で、あらゆる荒波を乗り越え、『アンパンマン』にたどり着くまでを描いた“愛と勇気の物語”になるという。そこで今回はドラマの放送に先駆けて、アンパンマンの正義について改めて考えてみたい。

【画像】やなせたかし氏が最後に描いたアンパンマン絵本

『アンパンマン』といえば、悪さを働くばいきんまんに対してアンパンマンが正義の鉄槌を下してこらしめるという、勧善懲悪の物語として受け取られがち。だが、実はその神髄はまったく異なり、やなせ氏独自の価値観が込められていた。

「正義というのは信じがたい。簡単に逆転するんですよ――」かつてやなせ氏は、そう語ったことがある。

1919年生まれで従軍経験がある上、弟を戦争で失っているやなせ氏にとって、おそらく“正義が逆転”するという感覚は痛切なものだったのだろう。戦中に正義とされていた太平洋戦争は、すべてが終わった途端に一転、あっけなく価値観がひっくり返された。

しかしやなせ氏はそれだけにとどまらず、“逆転しない正義”についても考えていた。その考え方は、2013年に刊行された自著『アンパンマンの遺書』の中で綴られている。

その中でやなせ氏は「正義のための戦いなんてどこにもない」と断言し、「逆転しない正義は献身と愛だ」「目の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えること」と自身が思う正義について語っていた。

この言葉を見て、やなせ氏が生み出したヒーロー・アンパンマンの存在を思い出さないわけにはいかないだろう。

アンパンマンは目の前に空腹の人がいれば、迷わず自身の顔を差し出す。それこそ原作となった絵本のアンパンマンは、顔を差し出しすぎたせいで「首なし」のまま空を飛ぶこともあった。その姿があまりにもショッキングだと、保護者や幼稚園からクレームが殺到したというのは有名な話だ。

だがそんな『アンパンマン』も、今や半世紀以上にわたって愛される作品に。やなせ氏が掲げた“正義”は今もなお現代に生き続けている。


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