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UPDATE|2023/12/04

上野樹里主演、他者を理解するということを極端な設定でストレートに描いた『隣人X -疑惑の彼女-』

(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会(C)パリュスあや子/講談社

この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、12月1日(金)より公開されている『隣人X -疑惑の彼女-』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】上野樹里酒主演、『隣人X -疑惑の彼女-』場面写真【11点】

〇ストーリー
ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。Xは誰なのか?彼らの目的は何なのか?人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっている。週刊誌記者の笹は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子へ近づく。ふたりは少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生える。しかし、良子がXかもしれないという疑いを払拭できずにいた。良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感、記者としての矜持に引き裂かれる笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけのふたりの関係は予想外の展開へ…!

〇おすすめポイント
一時期、日本も積極的にウクライナの難民を受け入れるべきだという意見が飛び交ったが、日本の難民受け入れ体制は、かなり不透明な部分が多い。

そういった現実は『マイスモールランド』(2022)やドキュメンタリーの『牛久』(2021)などでも描かれているが、今作で描かれているのは、もっと身近なことでありながら、全ての人間関係、人種問題にも通ずる物語である。

今作は、決してSF映画などではなく、原作者のパリュスあや子が、結婚を機にフランス移住した際に自分が移民となって感じたものが反映されたものとなっていて、センセーショナルでありながらも繊細に描かれているのは、原作者の体験と切実な想いが色濃く反映されているからだろう。

日本に限らず、人間というのは、自分と違う者を突き放す悪いクセがあり、それが戦争や分断を生み続けるのだが、あくまで人間は人間であって、肌の色や宗教、文化は個性。そのなかで危険な思想を持つ者かどうかは分けて考えなければならない。

実はそれを良いことであるように思って使っている部分もある。例えば、〇〇人は人情深いとか、反対に〇〇人は信用できないとか……。

人は別の国や人種を語るとき、その国や人種をひっくるめて語ろうとするが、個人は個人であって決してまとめられるようなものではないのだ。

極端なことを言えば、自分が日本人だと自信をもって言えるだろうか。ルーツを辿れば、どこかに日本人以外の血が混ざっているかもしれないし、そもそも本当に両親の子なのだろうか。自分が自分のことを100%知らないというのに他者を区別し、差別する権限がどこにあるのか。そんな単純なことに気付かないし、気づかせてくれない世の中になってしまっている。

今作は他者を理解するのに人種など関係ないということを極端な設定にしながらも、ストレートに描いた、”あたりまえ”なことに気付けなくなっている人間へのメッセージでもあるのだ。

(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会(C)パリュスあや子/講談社

〇作品情報
公開表記:12月1日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開中
出演:上野樹里、林 遣都、黃 姵 嘉、野村周平、川瀬陽太、嶋田久作、原日出子、バカリズム、酒向 芳ほか
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON / RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院

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