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UPDATE|2024/01/20

映画館は高い、2時間集中できない…有村昆「本当にいいコンテンツはお金を出さないと手に入らない」

有村昆 撮影:松山勇樹



もうひとつの処方箋として、長い時間集中できないなら、短い時間のショートフィルム、短編から見始めていくという方法があると思います。

例えば、新海誠監督のデビュー作『ほしのこえ』は25分にまとまっています。いつでも気軽に観れる長さなので、僕も気が向いたときに何度も繰り返して観ている作品です。

『ほしのこえ』は、新海誠監督の商業映画デビュー作で、脚本、演出、美術、編集、声など、諸々を1人で担当していて、その後の『君の名は。』や『天気の子』などにも共通する、セカイ系の元祖みたいな作品です。

好きな女の子が、遠い星に行ってしまうことになり、主人公の男の子とメールをするんだけど、最初はタイムラグがそんなになくやり取りできているんです。でも、彼女が何光年と離れていくと、メッセージが届くのが数ヶ月とか半年後になってしまう。その間に、お互いの状況や時間の流れが変わってきてしまい、メッセージが届くのが8年半後になってしまった時に、さあどうなるという話なんですけど、そんな果てしないスケールの物語をたったの25分で楽しめる。これだったらスマホを見ている暇もないと思います。

とはいえ、25分でも集中できないという方のためにもう1本、12分で終わる『愛しているって言っておくね』というアニメ作品もオススメします。第93回アカデミー賞短編アニメ賞を受賞した、感動的な作品です。

ある夫婦が、食卓で言葉もなく座っていて、その夫婦仲がもう風前の灯のような雰囲気になっている。そこに影がふっと入ってきて、動き出していくと、 かつてその夫婦には子供がいたということがわかるんですね。 家の壁に穴が開いてたりするんだけど、それは子供がボールを蹴ってできた穴だったり、その成長の思い出が綴られていく。

そんなある日、女の子が学校に行くと、銃声が響きわたって暗転する。そして携帯に「愛しているって言っておくね」というメッセージだけが送られてきます。

最小限の描写で、子供の成長の喜びと、悲しい事件と、夫婦の再生の物語が語られていき、そのすべてが12分間で完結します。セリフも無いので、どの国の人でも、どんな言語を使っていても伝わる、感動的でメッセージ性もある作品なんです。

…と、作品の説明をしているだけで12分超えそうなんですけど、それぐらいの深いテーマが詰まった完成度の高い作品なので、ぜひ観ていただきたいですね。

他にも優れた短編、ショートフィルムはたくさんあります。ディズニーアニメやピクサー作品には、本編の前にショートフィルムが流れるのが伝統なんですが、あれもだいたい5分くらいなので、それだけ観ていくというのもオススメです。

最近はyou tubeもショート動画だったり、TikTokのような短い作品のほうが需要があります。やっぱり短時間で効率よく、より多くの情報を得たいという人が多いんですね。

でも、僕は、映画の2時間前後というパッケージは揺るがないと思います。これは人間の生理的な感覚に基づいていて、スポーツとか演劇でもだいたい2時間くらいで収まるように出来ている。そのくらいなら誰でも集中できるはずなんです。

ただ、3時間を超えるような長い映画も増えていて、僕でも観る前にちょっとたじろいじゃう時もありますね。でも、思い切って映画館の席に座ってしまえば、思ったより時間の長さを感じないし、そこで面白い作品に出会えれば、これ以上の喜びはありません。相談者さんも、あまり肩肘張らずに、気軽に映画館に行ってみて、贅沢な時間を過ごしていただければと思います。

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