現在、日本将棋連盟100周年に向けて開催されている全六期にも及ぶ「新・将棋会館建設プロジェクト」のクラウドファンディングで、話題を呼んだ第四期の「『名探偵コナン』×将棋」のコラボ企画は『名探偵コナン』への深い愛を持つ香川女流四段の提案が、一つの契機となったのだった。
「このプロジェクトをたくさんの方に知ってもらうためには、国民的規模で人気のIPとのコラボや、著名な方とのタイアップが良いアプローチになると思ったんです。そこで、作中に羽田秀吉という棋士のキャラクターが登場し、将棋ともご縁がある『名探偵コナン』と何かできれば、双方のファンも喜ぶのでは?と。何より私自身見てみたかったので、実現が決まった時はとても幸せでした。
この企画が始まる頃に単行本103巻が発売され、作中で大きな謎の一つとされてきた名棋士の羽田浩司が謎の失踪を遂げた事件の伏線が回収されるなど、タイミングが奇跡的に重なりました。このコラボレーションが、将棋界、『名探偵コナン』の双方の未来に少しでも役立てたら嬉しいですね」
香川女流四段の発信活動として、現在一番力を注いでいると言えるのは、先述したYouTubeチャンネルだろう。約4年以上の長きに渡り、様々な企画を通じて将棋の魅力を発信し続けている。激務の中、どのようなモチベーションで動画制作を続けているのか?
「動画制作は基本的に楽しいです。逆を言えば楽しめないと続けられません。ただ、楽しいことばかりでもありません。動画内容を企画し、それを撮影。さらに自分が喋る姿を何度も確認して、そのたびに『なぜ、ここでこんなこと言ったんだろう……』と、メンタルにきたりして(苦笑)。ただ、一つ動画を形にできたときの達成感、これが自分を次へと繋げてくれています。あとはやはり視聴してくださる皆さんのおかげです。
確かに、対局との折り合いの付け方は難しい。動画は納得がいくまでいくらでも時間がかけられるので、あれもしたい、これもしたいと悩んでしまいます。けど、どこかで決断しなければ将棋も動画制作も、どちらも前に進めません。『今の私は何を必要とし、何が不要か?』を選択し続けることは将棋で長年学んできたことです。ある意味この動画制作も将棋で培った力が活きているのかも……と言うと格好つけすぎですかね(笑)。
将棋って精神力が大切な要素の一つなんですけど、満足のいく動画を完成させたときの達成感や自信が、対局に前向きな空気をもたらしてくれるんですよね。逆に厳しい意見があるときとか、ネット上の活動なので心ない言葉もこないわけではないのですが、気が付かない指摘などがあると勉強にもなるし、前向きにとらえていくのは大切ですよね」
約600本以上の動画の中で出色の出来だった動画は何か?という難しい質問を投げてみた。
「好きな動画はたくさんあります。たとえば、渡辺明名人(当時)にご出演いただいたときは、尊敬するタイトルホルダーにお時間をいただけて夢のようでした。ただ、自分一人で最高の動画を作れた、という実感はまだありません。まだまだ努力も工夫もできると信じています。
実はこの夏は100本の動画制作をするのが目標なんです。そこで、胸を張れる動画が作れたらいいなと。よかったら観ていただけたら嬉しいです」
(取材・文/田口俊輔)
▽香川愛生(かがわ・まなお)
1993年4月16日生まれ、東京都出身。日本将棋連盟所属の女流棋士。YouTubeチャンネルの登録者数は将棋界で最多となる20万人を誇る。
Twitter:@MNO_shogi