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UPDATE|2023/11/27

『ブギウギ』母親=聖母ではない、”人間らしさ”が描かれたツヤ(水川あさみ)はどんな人物だったか

スズ子(左)とツヤ(右)。『ブギウギ』第39回より 写真◎NHK



また、これまでスズ子に怒ることのなかったツヤが、唯一スズ子に声を荒げた場面がある。スズ子が、梅丸少女歌劇団を離れ、「東京に行きたい」と打ち明けたときだ。いつもはスズ子のことを全力で応援していたツヤだが、このときは「あかんもんはあかん!」と大反対。てっきり応援してくれるだろうと思っていたスズ子は、ショックを受けて涙したのだった。

このあたりから、ツヤの純粋な親心とは少し違った「スズ子を自分だけのものにしたい」という”義理と人情”に背いた感情がどんどんと膨らんでくる。自らの死が近づいてからもスズ子への強い気持ちは消えることがなく、梅吉に「何があっても、スズ子をキヌに会わせんといてほしいねん」「ワテの知らんスズ子をキヌが知るんは耐えられへん」「性格悪いやろ、醜いやろ」と吐露。

こんな自分が恥ずかしくもあり、それでもどうしようもなくスズ子を愛しているというツヤの思いは、画面越しでも痛々しく鮮烈に伝わってきた。そんなツヤを一見頼りない梅吉が「ツヤちゃんは最高の母親や」とまるっと受け入れるところも大きなポイントで、ツヤが”母親”の荷を下ろし一人の”人間”として対峙できる相手は梅吉だけだったのかもしれない。

ドラマや映画に出てくる”理想の母親”は、心優しく穏やかで器の大きい人物として描かれることが多い。しかし、ツヤは自分の弱さやずるさを度々吐露し、認めていた。見方を変えれば、後半のツヤの言動は、実母から子を奪った酷い義母、子離れができない独占欲の高い母親として捉えられていた可能性もある。しかし、水川あさみの巧みな演技と、スズ子と六郎、そして梅吉のツヤへの信頼が伝わる脚本・演出で、視聴者からは「ツヤの気持ちがよく分かる」「人間らしくていい」という声が多く見られた。

完璧に見える母親でもちっぽけな一人の人間であること、時には子を愛するが故に己の感情と戦っていること…これまでの朝ドラで描かれることのなかった”子供には見せられない母親の葛藤”に心動かされた人も多かったはず。

視聴者の心を掴み、スズ子にとっての”完璧な母親”を全うしたツヤ。これからもツヤは、軽快な口調とパワフルな笑顔で、ステージで輝くスズ子を見守っていることだろう。

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AUTHOR

りお 音月


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