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UPDATE|2023/12/07

『ブギウギ』で話題、2019年に楽譜が見つかった幻の曲『大空の弟』に込められた祈りと憎しみとは?

『ブギウギ』第49回で「大空の弟」を歌うスズ子 写真◎NHK

趣里が主演を務めるNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(総合・月曜~土曜8時ほか)。7日(木)放送の第49回では、音源や映像が残されていない幻の曲『大空の弟』が披露された。スズ子(趣里)が、戦死した弟・六郎(黒崎煌代)に向けて涙をこぼしながら歌い上げた姿に、視聴者からは「涙止まらない」「心が震える」といった声が多く集まった。実際の『大空の弟』がどのような曲であったのかは、笠置シヅ子の音源が残されていないこともあり、謎のベールに包まれている。今回は、これまでの六郎を振り返ると共に、幻の『大空の弟』に迫っていこうと思う。

【関連写真】号泣するスズ子を抱きしめる六郎、姉弟愛あふれる感動シーン【5点】

スズ子の唯一の姉弟として描かれた六郎は、思ったことはすぐに口に出す素直さを持つ、それはそれは純粋無垢な少年だった。これまで、スズ子の親友・タイ子(子役:清水胡桃)の好きな男の子をバラしたり、スズ子に「本当の姉弟ではないかもしれない」と言ったりとヒヤヒヤさせられる場面もあったが、それすらも可愛く思えてくるほど、とにかくピュアで愛らしい。それでいて、時に勘が鋭く、真実を見抜いたような発言に驚かされることもあった。

そんな六郎は、姉・スズ子のことをとても信頼していたように思う。スズ子が香川で自分が花田家の本当の子ではないと知り号泣していたとき、真剣な顔でスズ子を抱きしめた六郎の姿には、なんていい子に育ったのか…と親目線で見守った視聴者も多くいたことだろう。また、スズ子が六郎に「香川であったことは父ちゃんと母ちゃんには内緒に」と言いつけた場面を覚えているだろうか。六郎がバラしてしまうのではないか、と心配する声もあったが、六郎は最後までスズ子との約束を守り抜いた(下宿先の食卓でポロリと言いかけたのはセーフにしたい)。

さらに、赤紙が届き喜んでいた六郎が、スズ子にだけ「死ぬのが怖い」と本音を打ち明けていたことからも、姉への信頼度の高さがうかがえる。これまで亀以外に友達と呼べる存在が出てこなかった六郎にとっては、姉であるスズ子が唯一心を開いて話せる相手だったのかもしれない。

そんな六郎の戦地での様子は、物語では一切描かれることはなかった。時たまスズ子と梅吉に手紙が届いていたが「亀が亀が」と亀の心配ばかりしていて、今どんな思いでいるのか、元気で過ごしているのかなど、六郎自身のことは何も綴られていなかった。六郎の死についても細かい描写はなく、役場の人間が持ってきた紙切れ一枚だけで戦死が知らされた。だが、どんな残酷な死の場面よりも、”紙切れ一枚”の方が、当時、兵士の死が当たり前の日常であったというリアルさが伝わるひと場面でもあったように思う。

六郎の戦死を知り、スズ子はこれまでのように歌えなくなってしまった。「六郎のことやら色々浮かんで、喉が詰まるんです」と羽鳥善一(草彅剛)に打ち明けたスズ子の表情は、歌手としての人生を諦めようと覚悟しているようにも見える。そこで羽鳥がスズ子に手渡したのが『大空の弟』の楽譜であった。『大空の弟』は週タイトルでもあり、六郎の死を示唆しているものと思われていたが、まさかスズ子の新曲タイトルであったとは、誰も予想していなかっただろう。

AUTHOR

音月 りお


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